私は落ち込んだ時、良いことがあった時、疲れきって何もしたくない時、空を見上げます。空はいつもそこにあって、その壮大さに比べたら、自分はなんてちっぽけな存在なのだと安心し、清々しい気分になれるのです。
そこで、私が好きな装飾のような細かい模様で、空の絵をつくりました。一枚一枚の模様の線は多少ゆがんでしまっていても、大きな空が隠してくれる……はずです。

3年次に装飾的な活字書体の制作に取り組んでいた榎本留奈さんは、一枚の空の写真を39×56＝2,184のピクセルに分割し、それぞれに自ら考案した手描きの彩飾パターンを割り当てることで「私の空」を表現しました。作品との距離や角度に応じて多様な表情を見せる視覚的にもおもしろい作品です。もともと活字書体の制作は、文字増計の洗練化・定形化に通じています。その経験を踏まえ、写真をピクセルに分割して捉えるデジタル的な発想と、個々のコマを手で描くという装飾に対するアナログ的なこだわりが結びつくことで完成した本作は、タイポグラフィを介してデジタルとアナログを一体化し、しかも「私の空」という抽象的な概念を、優れてしめやかに、かつ清らかに具現化しています。

准教授・佐賀 一郎