田村正樹は、課題に対して真摯に向き合うが、自分らしい表現になっているかを常に基準に置いている。したがって課題にはいつも自分の考えを導入し、文章や、マンガで提出したこともある。私の講義に対しても再確認するように必ず質問に来た。それは、外部からの新知識や実験的な表現が自分らしさとどのくらい距離があるのかを探っているからに他ならない。私にはそう見えた。白い養生シートにマンガティックに描かれた巨大な卒業制作は、物語文学の王道ドン・キホーテをベースにしたドラマティックな力作である。何故ドン・キホーテなのかは疑問が残るが、空想的で理想主義的なドン・キホーテは、現代が求める滑稽で夢を捨てない愛すべきヒーローなのだと思わせる。田村は外見に似合わず、したたかで頼もしい。

教授・室越 健美