卒業制作優秀作品集2015
絵画学科版画専攻

森田 さやか

穏やかな天婦羅の郷。

技法・素材:水性木版
寸法:H91.5×W91cm

光は空間を繋ぎ、優しく包み込むもの。風は方向を示し、柔らかく変化を与える。形をなぞらえ、形を盾とし、形が風景となるとき、空まで目が届き空間が広く大きく私のところまで降りてくる。気がつくと、郷にある雪で作った私のかまくらは、笊のシェルターのようになっていた。生物や物体そのものが作り出す空間の内側は守られていても、空虚だった。自分を取り囲む人や物事が偽りだったり劇のようだとしても、私がひとり自然の中で感覚を研ぎ澄まし空間を据え感じる時は、穏やかさを取り戻し暖かいお湯に浸かるような充実感に満ち溢れる。空間は内包されるものよりも、境目の有機的な線と、そこから広がる外側の変化し続ける空間が、自分の感覚や人生に重要だと、ある風景の中の山が教えてくれた。

担当教員によるコメント

作品のタイトルにある「天麩羅」は、うわべを繕うということから「鍍金したもの」や「偽物」という意味だという。淡く柔らかい色調とは裏腹に、作者の視線は、クールなまでに存在の希薄さや空虚な孤独感を漂わせている。そして、舞台設定のような風景の中に存在するモノ達は、繊細で儚い。水性多色木版という技法を使って、和紙にバレンで繰り返し何度も色を摺り重ねて淡い色層を作り出していく。それはある意味、祈りに近いような行為なのかもしれない。そして版を触媒に他者と共鳴しながら、彼女は現実を浄化させた世界を作りだしているのではないだろうか。暖かい光と風が織りなす情景は、柔らかく優しい。

教授・古谷 博子

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