卒業制作優秀作品集2015
絵画学科版画専攻
- TOP >
- 卒業制作優秀作品集2015 >
- 絵画学科版画専攻 >
- 川合 翔子
自分を殺す魔法 #3
技法・素材:リトグラフ
寸法:H86×W61cm
己と異なるものに憧れて己の姿を変化させ、自分以外の誰かになろうとした狐は、自分の本当の姿を思い出すことができなくなってしまった。自分にないものは欲しくなる。自分以外の誰かになることができれば、自分の弱さや醜さに苦しむことも、嫌われて居場所を失う恐怖に苛まれることもないだろう。一方で、他者の中に埋没していくうちに、自分が本来持っていたもの、ほんとうに大切にしなければならないものを失ってしまうこともまた恐ろしく、悲しいとわたしは思う。物語の中の多くの狐が持つどんなものにでも化けることのできる力は、わたしには自分を殺す魔法のように感ぜられる。彼が自分を殺してまで、なろうとしたものは誰だったのだろう。
担当教員によるコメント
川合さんの作品には、オオカミや狐といった動物たちがしばしば登場し、物語を綴っていきます。絵本に描かれたストーリーの一場面を刹那的に、そしてその空気感をも静かに表現した作者の作品は、完成度も高く評価されています。絵本となると、ともすればお洒落で可愛らしくなり過ぎてしまうこともしばしばですが、作者はリトグラフという描くことを主体とした版画技法を扱う中で、モノクロームの世界に於いて静かな心情を粛々と構築していく体質を保ち、その陰影は叙情的で、ふくよかなトーンは見る者たちに様々なストーリーを連想させます。作品一点一点が「言葉の綴られない絵本」だと私は感じています。
准教授・佐竹 邦子