ルイス・サッカー著の小説『穴（Holes）』を原作とした映画美術設計です。映画化もされていますが、映画に影響されることなく独自のアイデアで監督をやる気にさせる高質な美術デザインです。干上がった湖の近くにある、昔、活気のあった廃墟になった町並みを巧みに利用し、映像的見た目に施設の本来の目的が隠されているというコンセプトがとても効果的です。物語全体の構成がわかるランドスケープモデル・廃墟でありながら魅力的なキャンプのジオラマモデル・特徴的なアイデアの所長事務所とキャンプテントのセットモデル、全てがそのコンセプトに沿って魅力的にデザインされています。キャラクターデザインも、出演者の個性をよく捉え、カメラの前で活き活きと演技をする様が目に見えるようです。ポスターデザインも、美しい中に映画のエキスを散りばめたとてもいいポスターです。美術監督としての役割を存分に果たした映画美術設計です。この美術で撮影された映画を劇場で観てみたいと思わせる作品です。市橋さんは、映画美術以外にも音楽ステージやドラマ美術でも、とても魅力的なデザインをしており、オールマイティな才能を持ったデザイナーです。これからの活躍を期待しています。

教授・山下 恒彦