2020年度 新入生の皆さまへ

新入生の皆さまへ、建畠晢学長、青柳正規理事長よりお祝いのメッセージを掲載いたします。

学長告辞

多摩美術大学 学長 建畠 晢 TATEHATA Akira

多摩美術大学 学長

建畠 晢

TATEHATA Akira

多摩美術大学に入学された皆さん、大学院に進学された皆さん、おめでとうございます。本来なら皆さんの前で直接に祝福の言葉を述べなければならないところですが、新型コロナウイルスの感染を防ぐために晴れの入学式を執り行うことができなくなったばかりか、授業開始の時期も遅らさざるをえなくなってしまったことが残念でなりません。いまなお先のことが見通せない状況ではありますが、それぞれに大きな希望を抱いて登校の日を心待ちにしているはずの皆さんの顔を思い浮かべながら、文書で学長としてのお祝いのメッセージをお届けすることにします。

私たちの社会は目下、大きな試練にさらされています。アートの道を志して入学された皆さんも予想外のことに戸惑っておられるかもしれません。創作、研究、教育の火を一時たりとも絶やさないというのが美術大学の生命線であると私たちは考えてきましたが、その基本方針すらも順守できない状況にあります。しかし皆さんの健康が何よりも優先されるからには、いましばらく自宅で待機していただくしかありません。

多摩美術大学は、学生であれ教師であれ、アートの道を歩まんとする同志による共同体です。アートは文化の核心をなすものであり、人々の心を豊かにするものである。平穏な日々には、誰もがそう思っていたことでしょう。しかしいま私たちが直面している現実の危機に対しては、アートはいかにも無力であるように思えてしまいます。

もっともこうした状況は、皆さんが専門的な勉学を始める前に、それぞれにアートの意義を問い直してみる滅多にない機会ともなりうるといえなくもありません。いかにもアートはシリアスな現実に対して無力であるかもしれないが、とすればそれは何のためにあるのでしょうか。正直に言って、この問いは今のような非常時ばかりではなく、アートの道を歩む際のさまざまな局面で頭をもたげてくる問いであって、そこに究極の答え、唯一無二の答えは見つかるわけではありません。私自身にとっても果てしない問いであり続けているのですが、考えるためのヒントの一つとして、いま思っていることを記してみましょう。

もしアートが無力であるとすれば、その無駄が許容されること自体に意味があるのではないか。見方次第では、そのことは私たちの社会を包容力のあるものにしてくれるのではないか。言い方を変えれば、他者をも共存させる社会、多様な価値観を融和的に受け入れる社会の形成に寄与しうるのではないか。誰もが同じ価値観を共有する社会は、効率的ではあっても、批評的な視点を失い、排他的な傾向を助長しかねません。生物多様性の保持が健全な地球環境に不可欠な条件であるのと同様に、文化やアートにあっても多様性が保証されていなければならない。いささか逆説的に聞こえるかもしれませんが、そう私は考えているのです。

本来の大学生活を軌道に乗せることができない時に、少々、悠長なことを記してしまいましたが、皆さんは司馬遷の史記にある「禍いを転じて福となす」という言葉を耳にしたことがあるはずです。これは、運不運は自ずと入れ替わるという受動的な態度ではなく、むしろ危機を克服するための積極的な強い意志をいうものです。力を合わせて非常時を脱し、皆さんをキャンパスに迎えられる時が少しでも早く来ることを願っています。それまでは感染の予防を第一にして過ごしてください。お目にかかる日を心待ちにしています。


理事長祝辞

学校法人多摩美術大学 理事長 青柳 正規 AOYAGI Masanori

学校法人多摩美術大学 理事長

青柳 正規

AOYAGI Masanori

新型コロナウイルスが猛威を振るっている現在、新入生の皆さんにとってもまた私たち多摩美術大学の在学生や教職員にとっても皆さんを迎えるための入学式を開催できず大変に残念です。なぜなら、大学は所定の単位を修得した在学生を送り出し、新たな入学生を迎えることによって新陳代謝をはかることができるので、教育研究組織としてつねに新鮮でいられるのです。入学式は若い活力と意欲を大学にもたらしてくれる新入生の参画を記念する行事であり、大学に新しい息吹を吹き込んでくれることを確認する儀式なのです。その欠かすことのできない入学式を断念せざるを得ないほどコロナウイルスの蔓延には最大限の注意を払わなければなりません。もちろん、私たちは無力ではありません。人類と感染症との長い闘いの歴史の中から、また現在経験しつつある事態から私たちはすでに多くのことを学んできましたし、対処の方策を試行しつつあります。そのことが奏功して、感染の危険がなくなり通常の社会生活が可能になり次第、本学の八王子キャンパスと上野毛キャンパスでぜひ元気な姿を見せてください。

私たちはいまコロナウイルスとの闘いの中で私たち自身が試されてもいます。ウイルス拡散防止策としての隔離や孤立の方策をとることは致し方ありませんが、そのことが行きすぎて国家的な集団主義や孤立主義につながってしまい、私たち一人一人の市民権を脅かすようなことがあってはなりません。また、それぞれの国が拡散防止のために一時的に門戸を閉ざそうとも、真の拡散防止には地球規模での協力こそが必要であることをしっかり確認しなければならないのです。

多摩美術大学は新入生の皆さんが1日でも早く大学キャンパスに来てもらいたいと願っています。大学が通常の状態に戻った暁には、それぞれの分野で活躍している先生たちと若く新鮮な活力にみなぎっている皆さんとが協力し合いながら創造性に満ちた授業、実習、演習を繰り広げることができます。どうか今はウイルス拡散防止を優先させることにご理解いただくことをお願いいたします。


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掲載日:2020年4月11日