卒業・修了する皆さまへ

卒業・修了される皆さまへ、建畠晢学長、青柳正規理事長、中村一哉校友会会長よりお祝いのメッセージを掲載いたします。

学長告辞

多摩美術大学 学長 建畠 晢 TATEHATA Akira

多摩美術大学 学長

建畠 晢

TATEHATA Akira

今年度の美術学部を卒業される990名の皆さん、大学院博士前期課程を修了される144名の皆さん、博士後期課程を修了される5名の皆さん、おめでとうございます。またこの日まで学生たちの勉学と創作を支えてこられた保護者の方々にも心からお祝い申し上げます。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、誰もが心待ちにしていた学位授与式を挙行できなくなってしまったのは何とも残念なことですが、春の日にキャンパスから巣立って行く皆さんの若々しい希望に燃えた姿を思い浮かべながら、文面によって学長としてのお祝いのメッセージをお送りすることにします。

まさに目下の状況がそうであるように、現実の世界には予期せぬさまざまな困難な事態が立ち現れてくることが少なくはありません。大学での勉学は各自が目指す分野での基礎となる知識と技量を身につけることを目的としていますが、将来の道は計画通りに歩めるとは限りません。自由と意力をモットーとする本学の教育理念は諸君がそれぞれの志をもって活躍するためののびのびとした能力を培うと同時に、順風満帆とは限らない、むしろ大きな壁が立ちはだかる時期が訪れた際に、それにタフに対応し、フレキシブルな発想で乗り越えるための精神的な基盤ともなるはずなのです。

最近、グローバリズムの必要性がさかんにいわれています。日本の社会はいささかガラパゴス化している。もっとグローバルな見地に立たなければならないというわけです。美術大学も、またこれから諸君が出ていく世の中もその例外ではないでしょう。しかし現実的にいってグローバルであれとは何を意味しているのでしょうか。グローバル・スタンダードを踏まえるとはどういうことなのでしょうか。この問いへのわかりやすい答えの一つは英語を共通語化するというものです。たしかに国際共通語は年々、英語に一元化されつつあり、私たちはそのことにきちんと対処しなければなりません。しかし英語化だけをもって、さらにいえば言語に限らず、文化的なスタンダードの一元化をもってグローバリズムとするという見方は、本来あるべきグローバリズムに逆行するものではないかとも私は思っているのです。

真のグローバリズムとは、むしろ文化的な、あるいは地域的、民族的、宗教的なダイバーシティを積極的に許容する思想でなければならないのではないか。その意味では私たちが身を置いているアートの分野は、ダイバーシティに依拠したグローバリズムの典型をなしているのではないか。視覚言語、造形言語はいかにも国境を超えたコミュニケーションを可能にしていますが、またそれぞれの地域の歴史的、風土的なアイデンティティに深く根差したものでもあるのです。

 皆さんはこうした真の意味でのグローバルな可能性を宿した言語を自らのものとして、外の世界に乗り出していくことになります。それは、一元主義的なグローバリズムの一方で排他的なファンダメンタリズムが渦巻いてもいる荒海であるかもしれません。しかしどうか本学の卒業生ならではのタフにしてフレキシブルな精神をもって、それぞれの夢を実現する航海に出てください。やむをえぬ事情とはいえ、学位授与式の晴れの場を用意して差し上げられなかったのは本当に残念ですが、皆さんのこれからのご活躍を期待しています。

理事長祝辞

学校法人多摩美術大学 理事長 青柳 正規 AOYAGI Masanori

学校法人多摩美術大学 理事長

青柳 正規

AOYAGI Masanori

最初に、新型コロナウイルス感染症の拡大を少しでも回避するために、卒業・修了生の皆さん、そのご関係者の皆さま、そして大学の教職員たちと共に学位授与式という式典を挙行できない状況になったこと、成果発表の場である多くの卒業制作展を中止せざるを得なかったことを大変残念に思います。長い人生の中でもっとも吸収力のある年代ともいえる20歳前後の四年間もしくはそれ以上の年月を多摩美術大学で過ごし、多くの事柄を学ぶと同時に自らの感性を確立して社会にあるいは新たな制作・研究に旅立つ皆さんも、学位授与式という式典を契機にこれまでの道筋とこれからの計画を今一度思い直すことができないことは、大変残念だと感じているのではないでしょうか。しかし、学位授与式がなくとも学位授与式で考えたであろうことをぜひ頭に描き、人生の大きな節目として心に刻んでいただきたいと思います。

今回のコロナウイルスが象徴するように、現代社会はまさに「VUCAの時代」にあります。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(不透明性)の頭文字をとったVUCAの時代においては、これまでのように自分をとりまく環境に対して受身で対応するのではなく、自らの考えと働きかけによってとりまく環境そのものを改善し、環境そのものをあらたに創り出す力が求められています。多摩美術大学では、あなた方が入学したときから何か新しいことを生み出すこと、新たなソリューションを生み出すことを美術・デザインによって共に学び、共に考え、いかに主体的に考えることが重要であり、また、共に協力しあいながら新たなものやことを創り上げる行為が大切かを体験してきました。

現在のコロナウイルスの広がりからも明らかなように、私たちが住む地球は今までよりもはるかに将来を見越すことが難しくなっています。気候の温暖化は季節ごとに取れる魚や果物などの収穫を狂わせています。温暖化のいちばんの原因であるCO2の排出量の増大はこれ以上放置できない状態にまで至っていますが、地球全体で考えても、人類はいまだに有効な方法を生み出すことができていません。つまり差し迫った現実を人類はコントロールできなくなくなりつつあるのです。さらに地球の各地では気象現象の激甚化がより顕著となっています。このような時代の中にあって多摩美術大学を卒業・修了する皆さんは、美術・デザインを通じて自らの考えと働きかけによってとりまく環境そのものを改善し、環境そのものをあらたに創り出す力を鍛えてきたのです。皆さんの一人一人が人類社会に貢献してくれるであろうこと、そして皆さんの一人一人がやりがいのある人生を送ってくれるであろうことを私たちは確信しています。その意味で心から「卒業おめでとう」という言葉を贈りたいと思います。


校友会代表祝辞

多摩美術大学校友会 会長 中村 一哉 NAKAMURA Kazuya

多摩美術大学校友会 会長

中村 一哉

NAKAMURA Kazuya

本年度、美術学部並びに大学院の学位を授与される皆さん、ご卒業・修了、おめでとうございます。
 また、保護者の皆さまにおかれましては、この新たな門出によって、長きにわたる彼・彼女らの学校生活が一つの大きな節目を迎えられますことを、心よりお慶び申し上げます。
 多摩美術大学の校友会を代表いたしまして、お祝いの言葉を述べさせていただきます。

数か月前には予想もしなかった新型コロナウイルスの世界的な蔓延の影響を受けて、このような形で多摩美の巣立ちを迎えられることは、卒業・修了生の皆さんにとって、さぞ心残りなことと思います。
 そして、健康、安全面の配慮を第一として、このような判断をせざるを得なかった大学の関係の皆さまも、同様に心を痛めていらっしゃることとお察しいたします。一刻も早い終息を皆さまと共に祈るばかりです。
 WHOがパンデミックと指定した今回のウイルス拡大の事象が意味するのは、いかに世界が緊密に関わり合い、人と人とのつながりが広範囲に及ぶのかという証であるように思います。この春、多摩美を卒業される皆さんは、今、そうした世界に羽ばたこうとしています。
 情報通信技術の飛躍的な進歩によって、国と国、人と人は、一世代前とは比較にならないほど素早く交流を図ることが可能となりました。その影響は、経済発展の舵取りばかりではなく、芸術や科学の分野においても国際的な協同が一般化しつつあることにも表れています。しかし、そうした多様性が広がりつつある一方で、自国のアイデンティティを前面に出して主張し、非寛容な態度から対立が激化する場面も少なくありません。環境の問題一つをとってもそうですが、これからは、一人一人が豊かに生きるのみではなく、みんながどのようにしたら幸せに生きられるかを、真剣に模索し行動していくことが求められる時代が来るのではないでしょうか。
 おそらく、皆さんが、これから歩み出そうとしている未来は、予測を超える未知の世界となることでしょう。今後ますますAIやIoTの技術は進歩し、人間がしてきたことは、機械がより精密で素早く行う時代が、そう遠からず来ることが予想されています。宇宙や生命そのものの神秘に迫ることも可能になるかもしれません。その中で、人が生きるということの意味や価値が、改めて問われる時が必ず来ると思います。

皆さんが、多摩美術大学での4年間、また大学院での時間を通して探し求めてきたもの、学び、そして、身に付けてきたものは、そのような、これからの世界に求められる答えを見出すことではなかったでしょうか。
 目指す方向性や形となって表出された表現は、一人一人異なるものであっても、多摩美を共通分母としながら、共に悩み、問いかけながらモノを生み出してきた、その「創造」の過程は、血となり肉となって、明日からの皆さんの一歩を支えるはずです。
 皆さんの先輩たちも、多摩美で学んできたものを基盤として、同じように、日々、人間や社会の課題に立ち向かい、自分として納得できる答えを探しながら活躍してきました。ぜひ、皆さんもこれまでの多摩美での学びを大きな糧として、これからの新たな道を切り拓き進まれることを願っています。
 皆さんの母校、多摩美は、明日から、皆さんにとって生活の場ではなくなります。でも、それは、多摩美で学んだという、新たな「意味」が始まる…ということに他なりません。自らの主題をキャンバスにぶつけ、形象化しようと取り組むとき、その展開とともに「意味」は深められ、その表情を変えていくに違いありません。きっとそれは、皆さんがこれからの生き方に何を求めるかによって、いかようにでもなる可能性そのものと言えるのではないかと思います。

しかし、一つだけ、これからも続く多摩美との接点があります。それが校友会です。
 現在、多摩美には42,000名を超える卒業・修了生がいます。その会員をつなぐ手立てとして、校友会では、毎年、「alT」という広報誌を発行しています。校友会のホームページで閲覧できますので、ぜひ、読んでみてください。校友会のさまざまな活動が紹介されています。例えば、その一つが全国26の支部で行われている「支部活動」です。展覧会などの様々な活動が紹介されていますが、支部のない地区の方は、近隣または関わりの強い支部に参加することが可能となっています。卒業後の多摩美との絆となるものです。各支部は、同窓生としての皆さんの参加を心から待っています。
 その他にも、校友会では、奨学生やグループ展などの助成活動やチャリティ展、出前アート大学などの様々な活動を進めています。最近では、都内の4つの私学系美術大学の連合である「四美大アラムナイ」の活動によって、10月2日を「美術を楽しむ日」として、広く社会に造形や美術、デザイン等の意義を広めていく普及・啓発活動も進めているところです。
 卒業を迎えるとともに、皆さんも校友会の正会員となります。私たちは、皆さんの活躍を支えていくお手伝いができればと思っています。多摩美とのこれからの接点として、ぜひ、皆さんからも積極的に発信し、校友会の活動に参加、協力してくださることを心から願っております。

結びに、多摩美術大学の青柳理事長、建畠学長をはじめとして、ご指導いただきました諸先生方に改めて敬意を表しますとともに、改めて、卒業される皆さん、保護者の皆様に、心からお祝いを申し上げて、校友会からの祝辞とさせていただきます。


先輩方からエール

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掲載日:2020年3月19日