TAMABI NEWS 84号(技術が開放する個性)|多摩美術大学
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132019年4月、建築家の武松幸治さんが、多摩美の卒業生として初めて「日本建築学会賞」を受賞。これを記念して、9月25日、八王子キャンパスで特別講演会「環境を変換する装置としてのデザイン」が開催されました。クリエイティビティの礎は「多摩美の4年間で培われた」と語る武松さんの講演レポートをお届けします。インテリアデザインも数多く手掛ける武松さん。「私の場合は建築物の中にもうひとつ建築をつくる、という感覚でデザインするので、インテリアデザイナーとは異なるアプローチだと思います」。このほかZUCCaなどのアパレルブランド、飲食店やヘアサロンの店舗デザインも手掛ける。 講演会後には環境デザイン学科生からのさまざまな質問に答えていただきました。その一部をご紹介します。―これから武松さんが取り組んでいきたいと考えていらっしゃることはなんですか。 「木造建築のさらなる普及に取り組んでいきたいです。商業施設などの大規模な建築物においては、木造はまだまだ簡単に実現できることではありません。法的な整備や安全性の検証なども必要ですし、何よりデベロッパーなど、建築を事業として行う会社にとって『コンクリートや鉄骨に比べて木造が良い』とメリットを感じていただく必要があります。さまざまなプレイヤーと対話を重ねながら開発していかなければなりません。ただ、将来的には、木造もコンクリートと同じくらいの耐久年数があると考えていますし、『解体して移設できる』という点はコンクリートに勝る部分です。木材のチップを加熱圧縮しそしてそのフィルムを支える骨組みを木造にしたいと考えたのです」 武松さんは現在、「抱えている建築プロジェクトのすべてを木造にシフトさせている」というほど、木造建築に力を注いでいます。その理由はおもにふたつ。 「第一には、木材はCO2を固定し、排出を抑えてくれる素材なので、地球環境を守ることにつながるという点。そして、環境配慮型の木材が普及していけば、衰退産業といわれる林業に対して、新しい木造産業が生まれる可能性があるのではないかという期待ができる点です」 ときには自ら耐火実験に参加したりしながら、構造体としての十分な強度と安全性をもつ木材の開発に邁進している武松さん。今回のスタジアムでも多くの木材が使用されましたが、ただ単に使えばいいというわけではなく、いかに施工性を高めるか、工期を短縮させるか、コストを抑えられるか、そして美しいデザインが実現できるか、ということも考え抜かれています。 「基本となる部材を、集成材を湾曲させてつくることで継ぎ目を少なくしてスピーディーに製造できるようにしました。さらにそれを複数同時に曲げて、容易に量産できるようにプレス機と治具を使うなど、設計においても製造工程においても、組み立て方においても、たくさんのアイデアを用いています。“いかに美しくつくるか”を追求するために何度もスケッチを重ね、美しい曲率やフォルムを考え抜きました」 こうして象徴的なトラック部分が完成。併設された義足開発ラボラトリーなどにも木材が多く使われています。て作るパーティクルボードのように、リサイクルして床材やマンションの壁に使うこともできますし、建築部材にならなくても、燃料になりえます。その可能性を広めていきたいです」―多摩美の学生たちにメッセージをお願いします。 「僕のベースは、多摩美にいた4年の間につくられました。建築科※1だけでなく、グラフィックデザイン、彫刻、染織※2など、さまざまな学科の学生と身近にコミュニケーションをとれたという経験が、現在の仕事につながっていると思います。多摩美に入っていなければ、今回のような建築物をつくることはできなかったでしょう。学生時代に自分の専門以外のものづくりの過程や思考を間近に感じて吸収することは、卒業後も必ずプラスになります。みなさんの周りにはたくさんの宝が埋まっているようなものです。そして、大学の外へ出て、さまざまな情報を取り込んでほしいと思います。好きなものや興味を惹かれるものをとことんリサーチして、自分のものにしてもらいたいですね」※1=現・環境デザイン学科 ※2=現・テキスタイルデザイン専攻2015年のドリカムのドームツアー「WONDER-LAND」では大型の野外ステージの設営を担当。展覧会やライブの会場構成などのインスタレーション案件は、コスト感や施工性、撤収のしやすさなどに特に配慮が求められるという。受賞祝賀会にて、登壇し挨拶する武松さん「多摩美に入学していなければ、 こうした建築物はつくれなかった」代官山のアパレルショップVIA BUS STOPDREAMS COME TRUEのライブステージを演出日本建築界からの高い評価一般社団法人日本建築学会が主催する日本建築学会賞の作品賞は国内の建築家に与えられる最高峰の賞とされています。「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」は2018年度のコンペティションで51の候補作品の中から選ばれた2作品のうちの一つで、「近年類まれに見る“必然の美しさ”を十二分に感じさせるものであり、またその必然によって清潔感■れる爽やかな“人“の居場所”を創出させている」との高い評価を得て受賞しました。10月30日には受賞を祝う会が現地で盛大に行われ、スタジアム館長の為末大さんによるトークをはじめ、障がい者アスリートによるランニングイベントも行われました。

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