卒業制作優秀作品集2020
情報デザイン学科

川部 紅美

悪女

インスタレーション
技法・素材:アクリル板、レジン液、蛍光塗料、ポリエステルフィルム、ブラックライト
サイズ:600×450×200mm

男を破滅させる魔性の女「悪女(わる)」。
またの名をフランス語で「Femme Fatale(ファム・ファタール)」と言われる。
これは、ミステリアスな悪女(わる)の本音をライトで照らしてのぞくインスタレーションである。
誰もが羨望し、すべてを手にしているように見える彼女も、実はあなたと同じ悩みを持っているかもしれない。
誇り高い建前の言葉に隠された、本当の意志がここにあるのだ。

私は21世紀の今を生きている人、特に同世代が持つ社会で解決されていない悩み、満たすことのできない欲求に注目してきた。
形にならないそれらは、恥ずかしく隠しておきたいものである。
悪女の誇り高い「建前」は、その悩みや欲求が入り交じる「本音」を違う角度から見直し、違う言葉に変換した「新しい価値観」である。

ヒロイン(ヒーロー)になれないジレンマ、誰かからの羨望や誰かへの嫉妬、騙したいのに騙される恋心。
あなたが憧れている人の中にも、実は在る本音。
強がりでも建前のように言い換えれば、「かっこいい生き方」として肯定できるのではないか。
いつかそれが建前から本音になっている日が来るかもしれない。

担当教員によるコメント

世の中では固定観念的に身分や性差についてラベリングして、封じ込めようとする無言の圧力がつねに存在する。それは、あからさまな差別にも満たないものであるから、なおさら居心地の悪さをつくりだしているともいえる。そのような何ともいえない住みにくさに対して、おおよその女子たちが胸に秘めているものを、あからさまにしてゆこうというのが川部さんの「悪女」だ。象徴的な言葉でその核心を指摘するフレーズが彼女にとって対抗する武器なのである。
言わなければいけないものを言えない軋轢を、この作品では二重に閉じ込められたプレートの奧から文字を光らせて主張しようとする。複数のフレーズが重なり合っている様子は、彼女の胸の内そのものであるかのようだ。
もしかしたら、それは本人のプライベートな体験からスタートしたかもしれないが、いつのまにか女子代表の本音と、奥底にある芯の強さを表すところとなって、このなんともいえない状況に打ち勝とうとしている。そんな自分を「悪女」と名乗っていても本当に悪いのは、そのような閉塞感を生み出している社会の枠組みと、とらわれた固定観念のなかでしか判断できない世の中の男性諸氏ということになるだろうか。

教授・森脇 裕之

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