卒業制作優秀作品集2020
芸術学科

奈良島 隆人

変容する浄土世界
芸能、文学から見る他界観

本論考では、日本において曖昧なイメージとして伝わっている「浄土」という他界観を、宗教、芸能、文学の、三つの視点から論じる。民衆の中で信じられてきた「浄土」がなぜ固定化した概念を持たず、感性的・感覚的に受け継がれたか。遥か彼方の地にある仏教的な浄土世界と、生者と近しい位置に存在する神道的な浄土世界。この矛盾した二つの価値観が、なぜ排他ではなく、融和の道を辿ったのか。これらの問題を、芸能、文学から考察し、「変容する浄土世界」とは何かを探る。

担当教員によるコメント

奈良島隆人さんの卒業論文『変容する浄土世界 ―芸能、文学から見る他界観―』は、まずその前提として、なぜ西方極楽浄土の思想が極東の列島である日本に根付いていったのか、仏教的な側面のみならず、それを受け入れた神道的な側面から、特に両思想の「共存」といった観点から掘り下げていったところに独創性が見出される。民俗学者にして国文学者であった折口信夫の代表作『古代研究』に説かれた「まれびと」としての「翁」を基盤として、中世の神仏習合的な環境のなかで形づくられた能楽のなかに日本的な浄土思想の再生を位置づけ、それを現代の文学、石牟礼道子の『苦海浄土』にまで展開していく構想力は、その流麗な文章力とともに、批評的な論考として、きわめて高く評価することができる。

教授・安藤 礼二

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